【映画】15歳の少女ララは、国内有数のバレエ学校に入学し、バレリーナを目指す。支えてくれる父のため、何より自分のために。しかし、ララは男の身体に生まれついた、トランスジェンダーだった。

こんな場面は出てこない

実はバレエ好き

昔、新国立劇場でバレエを観る機会があったのですが、その時にすっかりバレエの魅力にやられてしまいました。『闇雪路』というバレエをモチーフにしたアニメーションを制作いたしましたので、よろしければご覧になってみて下さい。

作品の参考に、バレエを題材にした作品も、いくつか目を通しました。
その中でも特別素晴らしかったのは、絵本『スワン-アンナ・パブロワのゆめ』、それに『ポリーナ』、『バレエ星』と、それぞれフランス、日本のバレエ漫画です。

『スワン』は、こんなにも美しく儚い絵本があるのかという名作です。
『ポリーナ』はドローイングタッチの、非常に省略された絵でありながら、実写を彷彿とさせるリアリズムで、一人のダンサーの生涯を立体的に浮かび上がらせています。
『バレエ星』は、もはやギャグ領域の超展開で、笑いが止まりません。それでいて、絵が非常に流麗で美しいので「なんだこれは」という印象です。

では、話題作『Girl ガール』はどうだったのか。
ご紹介いたします。

トランスジェンダー×バレエ

“世界観”とは何かを問われた時、皆さまはどう答えるでしょうか。

シュールだったりファンタジックな作品に対して、「独特な世界観である」という言い方がされることがございますね。私は「その映画において、何が当たり前で、何を問題視しているか」それが”世界観”だと考えております。

本作は「生物学的には男性でも、心が女性なら女の子なんだ!」という所から始まっています。
この場合、トランスジェンダーの存在自体は問題にしていません。どこかの国の議員みたいに、トランスジェンダーそのものの是非を問い正したり、「生産性がない!」などと頭ごなしに否定しません。

本作が問題としているのは、たとえ家族や周囲が理解ある人達だったとしても、ララが「私はここにいていいんだ」と安心できるような居場所がないこと。まだ社会が追いついていなくて、受け皿がないことです。

相手を尊重することから出発し、その上で生じる社会との齟齬、軋轢を映像で訴えてゆく。これこそが精神的に成熟した大人の世界観。

俗に言う”民度が高い”というやつです。

バレエという題材に、トランスジェンダーをかけ合わせる発想がすごい。

主演の人、何者だ?

ところで、バレエを題材に選ぶ時、課題となるのは何と言っても「ダンスをどうするか」だと思います。
一枚の静止画ならともかく、実写ですと、否が応でもプロのダンサーを雇う必要があります。
アニメーションだと、凄腕のアニメーターを探さねばなりませんね。

本作『Girl ガール』でも、役者選びは難航したようです。
主演のビクトール・ポルスターという男性(⁈)はベルギーのロイヤル・バレエ学校に通っており、数々のダンスコンペティションで優れた成績を残しているそうです。
ダンス、演技の才能に加えて、女性と見紛うばかりの美しい容姿。本作が初めての映画デビューらしいのですが、これからの活躍に期待が高まる所です。

実際本編では、ララ役の人が、本当は女性なのか男性なのか、とても気になりました。どうみても女性にしか見えない場面も多く、しかし、しっかりと男の身体をしている。

今自分が見ているのは何なのか、性別って何だっけ?

そんな感じで、脳内の既成概念が掻き乱されます。『ぼくのエリ 200歳の少女』を思い出しました。

おわりに

はい、ということで『Girl ガール』の紹介でした。
いかがだったでしょうか。私、バレエの話を始めると止まらなくなるので、早々に切り上げることにします。

とにかく、ビクトール・ポルスターという人物なくして、本作は誕生しなかったでしょう。彼の名演をぜひ、劇場で(回し者)。