1990年東京。会社の後輩と結婚した春子は、生まれたばかりの由季の世話に苦しんでいた。泣くのをやめさせるために叩いたり、浴槽に落としたりしてしまう。由季を夫の実家に預け、精神科診療所に通う日々。カウンセリングを受ける中で思い出されたのは、春子が幼少時代に体験したトラウマだった。

ペンと水彩の組み合わせって、いいよね

都市投影劇画とは……

本作はアニメーションの手法も使われているものの、基本的には静止画が動きます。

静止画が動くと言うと、矛盾しているように思えますが、映像のテクノロジーを使った電気紙芝居と考えて下されば、ご想像に難くないでしょう。紙芝居に実写を組み合わせた映像になっております。

手法としては大島渚監督による「忍者武芸帳」(原作 白土三平)が有名ですが、大島が白土三平の漫画を撮影してカット割りで繋げていたのに対し、原田浩監督は、本作「都市幻影劇画 ホライズンブルー」(原作 近藤ようこ)において、全て自分で絵を描いています!

カメラワークや照明の工夫もあって、なかなか観ていて飽きません。

そういうのって、中途半端に絵を動かすより、ずっと難しいと思うのですが……。

シネマハウス大塚で、文字通り衝撃の体験

後で詳しく紹介しますが、本作の情報を入手して会場まで辿り着くのは、困難を極めます(笑)。

映画ドッドコムなどで調べても「該当するコンテンツは見つかりませんでした」と言われますし、もちろんテレビで紹介されることもありません。私の場合は大学院でお世話になった知り合いから、予約用のメールアドレスを教えてもらいました。

「銀幕の館」をご利用のあなたは、実に運がいい。

会場に足を踏み入れると、原田浩監督が制作したであろう音楽と、抽象的な映像が垂れ流されており、コンテンポラリーダンスの方が踊っていました。そして昔ながらの(最近の映画館では効かなくなった)ブザーが鳴り、本編が始まります。

料金は千円で、希望する方には癒しのヌイグルミを貸してくれますし、映画泥棒扱いもされません。

子供の頃の体験は、大人になってからも影響を受け続ける

主人公の春子が赤ん坊に虐待する場面から始まる本作。

夫の啓介は「母親は子供を愛するものだろう!」と信じて疑いませんし、春子と啓介の母親は「私が若い頃はそんな泣き言許されなかったわ!」と何かと干渉してきます。「母性愛」などという言葉があるように、母親の愛を絶対視するような社会通念がある一方で、自分の子供をどうしても好きになれない苦悩を抱えた女性達は大勢いるようです。

1995年、原田浩監督は本作の脚本を執筆する際に、児童虐待・機能不全家庭の当事者20名の体験談をもとにしたそうです。

また原作者の漫画家、近藤ようこは「ホライズンブルー」(青林工藝舎)のあとがきにこう書いています。
「特に『被虐待児症候群』の中の『幼児虐待の一精神鑑定例』(福島章・金原寿美子)という論文は、次男を殺した母親の、彼女自身の幼年期にまでさかのぼる生活史を見ながら、なぜ子殺しに至ったかを解明したもので、私には(不謹慎な言い方ながら)非常にスリリングで面白く、また『理解』できた気もした。」と。

実際、春子(子供)を叩いていた母親の姿と、由季を叩く春子(大人)の姿は重なるものがあります。

子供の頃の体験が大人になっても影響し続け、「対人関係の問題」や「生きづらさ」に悩む、家庭内トラウマを抱えた人達が大勢いる。そのことが注目された時代でもありました。

原作では人間ドラマを中心に描いていましたが、原田浩監督の「都市幻影劇画 ホライズンブルー」は日本の昭和・平成史を描きつつも、まるで原田浩という一人の人間のセルフドキュメンタリーでも観ているような、そんなテイストに仕上がっています。原田浩監督が描いた絵や撮影(隠し撮り?)した映像を観ていると、他人の視点で過去の日本を覗き見ている感覚に陥るのです。

内容がハードなので、心が元気な時に観て下さいね!

次回開催予定

2019年12月28日(土曜) 19時開場・開演

※要メール予約 kiyubaru@gmail.com 
きゆばる

会場:シネマハウス大塚

東京都豊島区巣鴨4-7-4-101

JR大塚駅北口より徒歩7分

おわりに

このブログの方針として、真面目になりすぎないと言いますか、批評家の真似事はしないと決めております。

ただ今回だけは(年に一本くらいは)お許し下さいますよう。私の下らない方針のせいで「都市投影劇画 ホライズンブルー」を見逃すなどということになっては、陽の下を胸を張って歩けませんので。

ところで、来週はクリスマスですね。
とっておきのネタを用意しております。

それではクリスマスの夜にまたお会いしましょう。

著者
杉本直樹

杉本直樹

映像作家。 恐怖と笑いは魂を救う特効薬である!……という信念の元、現在アニメーションを制作中。本ブログでもホラー作品を多く取り上げているつもりなのだが、実はあまりジャンルにこだわりがない。

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