【映画】現代アートの価格を題材にしたドキュメンタリー。

アートの値段≠アートの価値

もう一生貧乏でいいわ

ドキュメンタリーの舞台はニューヨークのサザビーズ(サザビーズはロンドンで創業し、現在はニューヨークに本部を置いている国際競売会社)。秋のオークションまで期日が迫る渦中の、オークショナーやギャラリスト、批評家、投資家、アーティストにカメラを向ける。そしてオークション当日。アーティストの芸術にかける思いを他所に、芸術作品はみるみる値段が釣り上がってゆく。
芸術(アート)って、何だっけ。

『アートのお値段』は結構前から気になっていた作品です。私の専門領域はアニメーション表現ですので、現代アートとはそこまで密接ではないのですが、なぜ現代アート作品があんなに高値で取引されるのか、作品の値段は誰が決めているのか。以前から抱いていた疑問に本作はある程度答えてくれました。
「様々な立場からアート作品の価値を検証!」ではなく、「これがアート市場だぞ!」という印象。正直、美術大学の学生が観るには早すぎると思います。本作は現代アートの値段がいかにして高騰するかには答えていますが、「芸術とは何か」という根本的な問いに関しては赤子も同然です。ちゃんと考えているのは、アーティストくらいなもの。本作が悪いというより、被写体に敢えてそういう人物を選んだのでしょう。ドキュメンタリーとしては、よく出来ています。

華麗なる一族の資産運用

アメリカは有名な格差社会の国。ただ、所得の多い富裕層の方が当然税率は高くなります。想像することしかできませんが、「どうせ税金に持って行かれるなら、投資にでも投げておけ!」ということでしょうか。彼らにとって現代アート作品は、会社の株と同じく投資の対象でしかありません。アーティストから安く買って、競売にかけて高く売る。そうすれば儲かりますからね。アートの値段が釣り上がっているのは、単純にバブルに近い状況なのでしょう。本作によれば、ニューヨークの銀行は富裕層に現代アートへの投資を勧めるそうです。

本作には多くのアーティストが登場します。ラリー・プーンズ、ジェフ・クーンズ、ジョージ・コンド、ゲルハルト・リヒター……錚々たるメンバーです。こんなことを言っては酷でしょうが、生活に困らなくて毎日作品制作ができる人間に、何か悩みがあるんだろうか、そう思って観ていました。ありましたね、悩み。

本作には登場しないのですが、アーティストのバンクシーが、絵画の額にシュレッダーを仕込んでオークションで遠隔作動させる作品を作って、過去に話題になったことがありました。私はその当時、「これで値段がさらに上がることを見越していたんだろう。あざとい!」そう思っていたのですが、本作を観た後は解釈が変わりました。おそらく、オークションで値段が釣り上がった所で、アーティストに入ってくるギャランティは変わりません。転売目的で安く飼い、オークションで競り上げて高く売る商売ですから。バンクシーがあのシュレッダー絵画を制作した動機は、シンプルに”一矢報いたい”からではないでしょうか。
バンクシーの「風船と少女」が裁断されたのは、ロンドンのサザビーズです。本作はニューヨークの本部が舞台ですが、自分の作品を切り刻んででも警告しておきたかったのだとしたら、気持ちとしては理解できます。まあ、その仕掛けのせいでさらに値段が高まったのは皮肉です。

おわりに

今回はいつになく厳しめのコメントになった気がするものの、内容は興味深いものでした。テーマも露骨なところが逆に珍しい。芸術に関わる方は、元気がある時に観るといいかもしれません。自分の領域に近い分、苦しくなるかもしれませんので。

なんだか『ガールズ&パンツァー』の記事が書きたくなってきました。

著者
こねこ座

こねこ座

映像作家。個人でアニメーションを制作する傍ら、ご機嫌な映画紹介ブログの管理人をしている。

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